20080709_165420_DSCF4942 / くーさん

この時期に不動産(賃貸)業界で営業トークとしてまことしやかに囁かれるのが
「この時期は早く決めないと良い物件はすぐになくなっちゃいますよ!」

というものだが、この煽り文句は本当だろうか?

もちろん不動産会社は成約させてナンボの商売なので、たぶんにスパイスがかかっているのは重々承知。

それにしても、市場のメカニズムを考えていくと、いかにもこの営業トークが胡散臭いと思えたので検証してみた。

その結果、むしろこの時期は後半になればなるほど良い物件に出会える可能性が高くなるのではないかとの結論に達したのでその理由を紹介したいと思います。

■万人にとって「良い」物件など存在しない

まずはじめに「良い」物件とはいったい何のことでしょう?

「家」とはいっても資本主義社会における「商品」であることには変わりありません。

なので、基本的には物件のスペックと家賃などの価格は比例関係にあります。

【スペックと価格の相関】
chintai1

一般的にスペックが高いとされる、面積が広く、築年数が新しく、駅から近いほど家賃も高くなるというわけです。これはまあ当然の話です。

そんな中、上図の真ん中の点のようにスペックと家賃の相関を表す線よりも下にある物件は、「相場よりもお得である」ということになります。言い換えると、「同等のスペックの他の物件よりも安い」ということになりましょうか。

こんなものがあれば一見すると「良い」物件であると思われるかもしれませんが、まだ騙されてはいけません。

上記文中にある通り、これはあくまで「同等のスペック」の物件に対する「相場」の考え方なので、実際には、厳密に全く同じ家というのは存在しません。

この一物一価の極みとも言える不動産という商品の特性が、業界の不透明さを後押ししているわけですが、何はともあれ全く同じ家は存在しません。

なので、こういった「一見お得に見える」物件というのは、大概の場合は「スペック」上は同じ物件に見えますが、一般の「スペック」には表れないような細かい部分でデメリットがあることがほとんどです。

繰り返しになりますが、物件の価格は市場メカニズムにより決まるので、一概に「良い≒お得」な物件というのは存在しないのです。


■引越シーズンにおける需給バランスの変化

それを念頭に置いたうえで、実際問題住み替えシーズンの前半に探した方がいいのか、後半はそんなことばかりなのか、考えたいと思います。

結論から言うと、どちらかというと後半の方が結果的にお得になる可能性が高いです。

どういうことかというと、これは需要と供給のバランスの変化で説明できます。

【前半の需給バランス】
chintai2

数字はちょっと簡単にして説明しますが、住み替えシーズンが始まると同時に全員が一斉に部屋探しを始まると仮定します。

この3月までに引越を決めたい人の数が100万人、世の中に出ている空室が400万物件とすると、上図のようになります。
(記憶を頼りにですがだいたい合っているはず)

数だけの比較ですと見ての通りの借り手に有利な市場となっています。
その比率は1:4、つまり倍率は4倍ということです。


ではこれが、シーズンも後半になるとどうなるか。

全体の8割の方が既に部屋を決め、住まい探し戦線を離脱したと仮定します。

すると、

【後半の需給バランス】
chintai3


こうなります。

ご覧の通り、80万人の入居者と80万件の物件が市場から消えますので、結果として入居希望者と空き物件の倍率は16倍まで上がっています。

このように需給バランスが崩れると、当然借り手の立場は住み替えシーズン前半よりも強くなります。

自然、より多くの物件で入居者獲得争いが加速するわけなので、中には売れ残りを恐れて値下げを断行する大家もいるでしょう。

一人が値下げを始めれば占めたものです。
それによりさらに市場のバランスは崩れることになりますので、他の物件も徐々にではありますが、礼金などの値引きを検討するはずです。

もちろんただ待っているだけでは、不動産会社の方が情報面で有利な立場にいるのでしらばっくれる可能性もあります。

が、現実は多かれ少なかれ入居希望者の力が強まっているのは事実です。
はったりに負けずにお得な条件を頑張って引き出しましょう。
不動産会社もシーズン終わりが近づき焦っているのですから。


■なくなるのは「良い」物件ではなく「よくある」物件

では、最初のころは行動を起こさずに、なるべく後半になってから部屋探しをした方がいいのかというと、これもまた例外があります。

例外は、上記の例でいうと、既に決まってしまった80万物件の中に自分が住みたいものがあった場合です。

住まい探しは早いもの勝ちなので、やはり最初のころは400万物件全てから選べるというのが強みになります。

特に新築などの「一般的に人気」な物件は早くなくなります。
そして、建物なので在庫がなくなったらもう次はありません。

ここに他人よりも早く探し始めるメリットがあります。

自分が希望している条件の物件が、他の皆も欲しがるような「よくある」条件だった場合には、先に取られてなくなってしまう可能性がありますので、すぐに探した方がよかったということになります。
(この時期に共有する情報としては後の祭りですが。)

反対に、自分がちょっとマニアックな条件で探している場合には、後半になっても物件が売れ残っている可能性が高いですし、それはシーズン終わりに近づくほど値下げ圧力が働きます。

新築という人気の条件にこだわらず、古くても安ければいいや、と思える人にとってはもっともっと安く借りられるチャンスがあるわけです。


物件の条件と同じように、物件の探し方に関しても、万人にとって「良い」探し方はありませんので、自分に合う探し方を焦らずに選んでみてください。




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と、珍しく専門知識のある分野で役に立ちそうな情報を書いてみましたが、これにもちょっと嘘が含まれるというか、前提がありますのでだまされてはいけません。

前提はあくまで、市場の価格決定プロセスが適切かつ流動的である、ということです。

実際は本当に単純にお得物件が埋もれていたり(つまり価格設定を間違って安くし過ぎている)、空室のままシーズンを終わっても別に気にしない大家がいたり、とうまくはいかないでしょう。

まあそれでも、主題であった「早く決めた方がいいのか?」という問いに対しては「NOの場合も多い」という答えの一つにはなっているかと思います。


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